"「格下」の同級生に頭を下げる夜" 第6話
俺たち、もうじゃないんだ。俺にだって庭があるし、子供だっている。今更昔のことを責められたって、どうしようもないじゃないか」
「私はおに責任を取れとは言っていない」
「じゃあ何なんだよ!」
が声を荒げた。
周囲の客がわずかにこちらへ線を向ける。は慌てて元をで覆い、声を潜めてを乗りしてきた。
「俺はただ、あのの空気を壊したくなかっただけなんだよ! 当、公平に逆らったら、今度は自分が何を言われるか分からなかった。みんなにわせて笑ってたのは、仲れにされたくなかったからだ! 俺だって必だったんだよ!」
被害者ぶったその叫びが、障りに響く。
「だから?」
「え……?」
「おが自分の保のために笑っていたとして、その笑い声で踏み躙られていた私の尊厳は、どこへくんだ?」
の顔から、徐々に血の気が引いていく。
「おは『自分は普通のだ』と言いたいんだろう。子供を育て、真面目に働き、を傷つけるような悪ではないと、自分をさせたいだけだ」
「藤森……」
「いいだと証してくれと頼んだ覚えはない。だがな、。自分が保のために誰かを傷つける側に回っていたという過の事実から、都のいい言い訳で逃げるな」
私の言葉には、りの抑揚すらなかった。
ただ、厳な事実の提示だった。
は両で顔を覆い、そのままかなくなった。
震える指のから、掠れた声が漏れす。
「……俺は、ずっと怖かったんだよ」
「何が」
「おが……黙って耐えてるのを見て、のどこかでホッとしてたんだ。『標が藤森でよかった』って……そうってた自分がいたんだよ」
吐きされた本音。
、この男がの底に沈め、決して直しようとしなかった最も醜い部分。
「認めたなら、もういい」
私はちがった。
伝票をに取り、テーブルの端に千円札を枚置く。
「おを許すつもりはない。だが、度と私ので『に流そう』などとにするな」
は顔をげることができず、たださく丸まった背を震わせているだけだった。
喫茶をると、のはすっかりのたさを帯びていた。
見げた空はく濁り、今にも何かがりしそうだった。
ポケットので、スマートフォンが再び震える。
取りしてみると、見覚えのないアカウントからのLINEメッセージが届いていた。
アイコンは、控えめな野のイラスト。
メッセージをいた瞬、私のが止まった。
林千:『藤森くん、突然の連絡をごめんなさい。昨の同窓会に席していた、林千です』
千。
代、私のの席に座っていた女子徒だ。
誰かを積極に虐げることもなく、かといって誰かを庇うこともない、教の景に溶け込むようにして過ごしていた、物静かな女だった。
メッセージは、さらに続いていた。
『昨夜のホテルのこと、私もあのテーブルの端で、最初から最まで見ていました。も、そして昨も。私には、あなたにどうしても伝えなければならないことがあります。もし迷惑でなければ、しだけをいただけないでしょうか』
私は画面を見つめたまま、さく息を呑んだ。
千が何を話そうとしているのか、まったく見当がつかなかった。
、私と千のには、特別な会話などほとんどしなかったからだ。
たまにプリントをろへ回す、あるいは消しゴムを拾ってくれた、微かに交わす会釈程度。
その彼女が、なぜ今になって私を呼びすのか。
私は歩の途でち止まり、い返信を打ち込んだ。
『今、駅の喫茶をたところです。、同じ所でいいですか』
送信してすぐに、既読がついた。
『ありがとうございます。すぐに向かいます』
喫茶に戻り、先ほどとは別の、窓際の席に座った。
注文した温かいストレートティーからちる湯気を眺めていると、控えめな音がづいてきた。
顔をげると、紺のコートを着た女性がっていた。
代の面を残しながらも、目元には代半の落ち着いた輪が刻まれている。
「藤森くん……お待たせしてごめんなさい」
「いや。
座ってくれ」
千は会釈をして、私の向かいの席に静かに腰掛けた。