"ICUを出たら、私の家に弟一家が住み着いていた" 第11話
階のエントランスには緩やかなスロープがあり、オートロックの扉を抜けると静かな廊が続いている。
契約した階の角部は、わずか畳ほどのワンルームだった。
玄関からリビング、浴、トイレに至るまで、段差はミリもない。
壁には真しいすりが隙なく巡らされている。
理恵が荷物を運び込み、私が松葉杖をつきながら内を見渡した。
余計な具は何もない。
病院の支援サービスで配した介護用ベッドと、さなローテーブルがつ。
それだけだった。
「……静かね」
「誰にも邪魔されない、あなたの所よ」
理恵の言葉が、乾いた喉にたいのように染み渡っていった。
あの広いで母の嫌を伺い、弟の無に怯え、族という名の檻に閉じ込められていたの自分に、見せてやりたかった。
こんなにも呼吸がしやすい所が、世界にはしていたのだと。
そのの夕方、私のスマートフォンに美からLINEが届いた。
『お姉さん、退院おめでとうございます。あの……お伝えしなければならないことがあります』
続いて送られてきたのは、健と母が現、私の自宅で企んでいる々しい現状報告だった。
『お義母さんと健さん、をていく気なんて最初からありません』
『お姉さんが送を止めたせいで、先の健さんの借返済がショートしました。
消費者融から自宅に督促の話が鳴り止まなくなっています』
『健さんは「姉貴が病院から直接このに戻ってくるしかないんだから、帰ってきたところを母さんとで囲んで、座の暗証番号を吐かせればいい」って息巻いてます』
『お義母さんも「真由美は世体を気にする子だから、親戚を集めて騒ぎすれば必ず折れる」って言って、叔母さんたちを今週末にに呼び集める準備をしています』
文字を追うごとに、私の瞳の奥はえ切っていった。
反省など、微もしていない。
怪をして歩けない娘を自宅に誘い込み、親族総で禁して財産を巻きげる。
それが、歳の実の母親が、命がけで自分を養ってきた娘に対して仕掛けてきた罠の全貌だった。
私は美に返信した。
『美さん、今週末、あなたもそのにいてくれますか?』
『えっ……でも、私は子どもを連れて実へ避難するつもりで……』
『あなたが健さんと正式に清算し、子どもたちを守りたいなら、そのにち会うべきです。すべての決着を、そこでつけます』
分、美からい返信があった。
『……わかりました。逃げずに、きます』
決戦のは、曜の午に決まった。
曜の朝、たいのがっていた。
私は理恵が運転する軽自の助席に乗り込み、に自分で買ったあのへと向かった。
部座席には、みのある黒い革張りのバインダーが置かれている。
過分の通帳コピー、確定申告の控え、登記事項証、そして弁護士のリーガルチェックを経た『退勧告通』。
すべて、私が会社で培ってきた財務管理の技術を総員して編纂した、血の通わない絶対な事実の束だ。
宅の坂をり、見慣れたツートンカラーの軒が見えてきた。
ガレージには、健の型落ちのミニバンが無造作にめられている。
玄関には子どもの輪が放置され、庭の植え込みは入れもされず枯れが伸び放題になっていた。
わずかヶらずで、私のはすっかり荒れ果てていた。
「真由美、丈夫? 、痛むなら私が先に入るけど」
「いいえ。これは私のよ。私が自分でドアをけるわ」
私は松葉杖をしっかりと握り、助席のドアをけた。
玄関のにち、持参していた鍵を差し込む。
カチャリ、とい属音が響いた。
階の鍵は、さすがに付け替えられていなかった。
扉を押しけた瞬、むせ返るようなタバコの煙と、油の酸化したような異臭が腔を突いた。
廊には脱ぎ散らかされた靴と、空になった通販の段ボールが積みにされている。
「誰だ!?」
リビングの引き戸が乱暴にき、健が顔をした。
無精髭をやし、スウェット姿の弟は、松葉杖をついてつ私の姿を見た瞬、ぎょっと目を見いた。