"ICUを出たら、私の家に弟一家が住み着いていた" 第13話
「お、お姉ちゃん、違うのよ! あれは……!」
母の取り繕う声は、もはや誰のにも届かなかった。
親戚を方につけていたはずの『な母親』のメッキが、数字のに瞬で剥がれ落ちていく。
だが、私の追撃はそれだけで終わらなかった。
「そして健」
私はポケットから、さなベルベットの袋を取りし、テーブルのに置いた。
から滑りたのは、父の形見である純のネックレス。
健の顔が、恐怖で気に変わった。
「これ、あなたが美さんに『母さんからもらった』と嘘をつき、のダッシュボードに隠して質に入れようとしていたものね」
「な……な、んで……」
「美さんからすべて聞きました」
健が弾かれたように美を睨みつけた。
「てめえ! 美、裏切ったのか!?」
「裏切ったのはあなたでしょう!!」
美が突然、ちがって絶叫した。
その瞳からは粒の涙が溢れていたが、声にはりと軽蔑が渦巻いていた。
「お義父さんの遺産があるって嘘をついて! お姉さんのに転がり込んで! 私に棒の片棒を担がせようとして! 挙げ句の果てに消費者融から何百万円も借して……全部、全部嘘だったんじゃない!」
美はバッグから、記入済みの緑の用をテーブルに叩きつけた。
婚届だった。
署名捺印欄には、すでに美の名がしっかりとき込まれていた。
「子どもたちの荷物は、さっき全部に積みました。私、実に帰ります。あなたとは、もう秒も緒にいられない」
「美! 待てよ! 子どもたちはどうすんだよ!」
「あなたのような嘘つきに、父親を名乗る資格はありません!」
美は子どもたちのを引き、度も健を振り返ることなく玄関へと向かった。
ガチャリとドアが閉まる音が、健の破滅を決定づけた。
膝から崩れ落ちる弟。
その姿を見つめながら、私はバインダーの最の類を取りした。
弁護士名と私の自署名が入った、『退勧告通』。
「健。このに対するあなたの権利はゼロです。の遺産分割協議、そして法務局の登記事項証、すべて確認済みです」
私は類を健のから落とした。
がハラハラとに散らばる。
「今末をもって、こののすべての鍵を交換します。それまでに私物をすべて撤しなさい。分でも過ぎた、警察へ法侵入として被害届を提し、裁判所へ当利得返還請求訴訟を提起します」
「姉貴……頼むよ、許してくれよ……! くところがないんだよ!」
健がにいつくばり、私の元に縋り付こうとした。
私はややかに松葉杖を歩引き、そのを踏みつけるように避けた。
「くところがない? 歳の健康なが、何を甘えているの。
自分の借は、自分ので働いて返しなさい」
「真由美!!」
母がソファーから転がり落ちるようにして、私のコートの裾を掴んだ。
顔を涙とでぐしゃぐしゃにし、醜く歪んだ顔で私を見げる。
「あんた、鬼よ! 自分の弟をに迷わせる気なの!? 親子の縁を切るって言ったのは冗談じゃないの! 謝るから……私が悪かったから! 今まで通り、活費をちょうだいよ! このにまわせてよ!」
母の指先が、私のコートのをく引っ張る。
。
この涙に、このすがるようなに、私は何度騙されてきただろう。
「ごめんね」と言われれば許し、「あんたしか頼りがない」と言われれば財布をいてきた。
だが、今の私のに来したのは、吐き気を催すほどの淡さだけだった。
私は母の首を、自分のたい指先で掴んだ。
そして、本ずつ、その指を私のコートから引き剥がした。
「お母さん」
「真由美……」
「『にかけたにきななんて必ない』。病で、あなたが私にそう言ったのよ」
母の息が止まった。
目を見き、自分が吐いた呪いのような言葉をいしたのか、顔面が蒼になっていく。
「自分のでちなさい。あなたたちの面倒を見るは、もうこの世界にはもいません」
私は叔母に線を向けた。
叔母は完全に青ざめ、申し訳なさそうにさく頷くだけだった。
「理恵、きましょう」
「ええ」
私は度もろを振り返ることなく、松葉杖を規則正しく突きながら、玄関へと歩をめた。
背から、健の絶叫と、母の狂乱したような泣き声が追いかけてくる。