"18年介護した義母が亡くなった翌日、私は横領犯にされた" 第1話
荼毘に付されたばかりの義母の骨壺は、まだの箱のでかすかにを持っていた。
喪の胸元に染み付いた線の匂いが、腔の奥にく淀んでいる。 告別式を終え、親族が引き揚げたあとの法律事務所の応接。 のが、汗ばんだ首筋を容赦なくやしていた。
「――では、故・佐子様が、当職に預けられていた面を示いたします」
角い鏡をかけた森田弁護士が、指先で卓の茶封筒をいた。 厳密な仕で取りされた枚の用。 そこに並ぶ、見覚えのある義母の端正な文字。
夫のは、私の隣で疲れたように浅く息を吐いた。 義妹の由加里は、向かい側の黒い革ソファにく沈み込み、組んだ脚を落ち着きなく揺らしている。
弁護士が、事務な抑揚のない声で読みげ始めた。
「『申述。私の男の妻・美は、私の衰に乗じ、預通帳の管理を執拗に迫った。私の、座にあるはずの預貯百万円にながあった、すべて美による当な着とみなし、警察および関係関への調査を求めるものである』」
応接の空気が、瞬で凍りついた。
……は? いま、何て言った?
「以です」
弁護士がを置いた瞬、隣にいたのがいた。 私の指先に触れていた夫のが、まるで汚らわしいものから逃げるように、するりとれていく。
その指先の温度の引き方が、何よりも々しかった。
「……ちょっと、お義姉さん」
を切ったのは、由加里だった。 赤いマニキュアを塗った指先で卓を叩く。カツ、と乾いた音が内に響いた。
「どういうこと? お母さんが倒れてからのヶ、通帳を預かって病院代をし入れしてたの、あなただけでしょ」
「待って。私は着なんてしてない。頼まれた支払いを、指示された通りに――」
「じゃあ、この百万って何よ!」
由加里の声がねがる。 弔いの席の直とはえない、剥きしの敵。
「お母さん、ずっと怯えてたのよ。『美さんに通帳を奪われたら、私は文無しで施設に放り込まれる』って。私に話で泣きついてきたことだってある!」
の奥で、キーンと鋭い属音が鳴り響いた。 。 このに嫁いで、私がどれだけ義母の無茶な求に耐えてきたか。 「農のは育ちがれる」と親族ので嘲笑われ、盆暮れの法事では座る暇もなく台所に縛り付けられた。
それでも、脳梗塞で倒れ、半が自由になった義母を、毎のように病院へ通って病したのは誰だったのか。 は仕事が忙しいと逃げ、由加里は「見いにくと気が滅入る」と寄り付きもしなかった。
そのヶ、義母は子の背もたれから私を見げ、震えるで私のの袖を掴んだのだ。
『美さん、今まで悪かったね。頼れるのは、あなただけだよ』 そう言って、掠れた声で泣いたのだ。
あれは。 あの涙は、全部これのための布だったというのか。
「さん」
私は隣の夫を見据えた。 逃げを塞ぐように、その横顔を睨む。
「あなた、何かってたの」
は線を泳がせ、黒いネクタイの結び目を指で弄った。 目をわせようとしない。 この男が都の悪い現実から逃げるの、いつもの癖。
「……母さん、入院するし、俺にも漏らしてたんだ。『美がおの所をしつこく聞いてくる』って。俺はてっきり、気のせいだとってたんだけど……」
「私がいつそんなことを聞いたの? を言って。具体にどの座の何を聞いたっていうの?」
私の鋭い問い詰めに、は怯んだように肩をすくめた。
「そんなの覚えてるわけないだろ! でも現に、母さんは弁護士にこうやって類を残してるんだぞ! 俺だって信じたくないよ……だけど、母さんが嘘をついてぬわけないじゃないか!」
母親のを利用して、妻を犯扱いする。 喉の奥が、砂を噛んだように渇いた。 だが、取り乱して泣き叫ぶ気には毛ならなかった。 ここで取り乱せば、「ろめたいから喚いている」と処理される。この国で、この親族ので、嫁というのがになることほど利な悪はない。
「森田先」
私は背筋を伸ばし、弁護士に向き直った。
「その申述、いつ作成されたものですか」
弁護士は鏡のブリッジを押しげ、元の類をめくった。