"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第9話
良太の稼ぎじゃ仕送りもできないし……俺の遣いから面するにしても、限界がある……」
「、何もろうとしなかった罰よ」
私はちがり、夫を見ろした。
「いい? お義母さんをこのに戻すことは絶対にありません。どうしても同居させたいなら、あなたがをて、お義母さんと良太と緒にで暮らしていきなさい。それが嫌なら、役所へって齢者向けの支援や福祉サービスを調べなさい。ケアマネジャーに相談して、使える制度を洗いしなさい。それが、息子としての最限の責任よ」
夫は何も言い返せず、ただ刻みに震える両で顔を覆い続けていた。
その翌の夕方、事態はわぬ方向へといた。
会社から帰宅する途の内で、私のスマートフォンが震えた。 織からの着信だった。
駅のホームにりち、通話ボタンを押す。
「はい、織さん。何かあった?」
『お義姉さん……今、お丈夫ですか?』
織の声は、ファミレスで話したとも、LINEの文面とも違っていた。 どこか迷い、戸惑い、揺れているような湿り気を帯びていた。
「ええ、丈夫よ。良太さんがまた何か言ってきたの?」
『いえ……良太じゃなくて、お義母さんです』
雑踏のざわめきので、私のがピクリとねた。
「お義母さんが、あなたに?」
『はい。今の昼、私のパート先に突然現れて……。
驚いて、裏の喫茶でしだけ話をしたんです』
「何を言われたの? まさか、復縁しろとか介護しろとか脅されたんじゃ……」
『違います』
織は言葉を濁し、躊躇うように息を吸い込んだ。
『お義母さん……泣いていました』
「……泣いていた?」
『はい。古希の席でのことを、私に謝ってきたんです。「あなたの気持ちも聞かずに、勝に同居を決めて本当に悪かった」って。それで……昔の話をされました』
織の語りは、静かだった。
『にを失った、お義母さん、本当にのうかとったそうです。親戚からろ指を指されて、息子の未来を潰してしまったって……。だから、男のに転がり込んだも、肩が狭くて、惨めで仕方がなかったって。「私はこのに居候させてもらっている役たずだ」って、ずっとい詰めていたみたいで』
私の胸の奥が、たくざらついた。
『お父さんが倒れて、寝たきりになって……の世話をしながら、お義母さんは「これでやっと、このに私の居所ができる」って、ホッとしたそうです。誰かの役にっていなければ、いつ追いされるか分からない。見捨てられるのが怖くて、必で事をやって、孫の面倒を見て……』
織の声が、わずかに震えていた。
『お義母さん、最に私に言ったんです。「千里さんはでもきていけるいだし、もある。
でも良太は頼りないし、織さんにも見捨てられたら、あの子はどうなるの。私にはもう、良太しか残されていないのよ」って……』
私はホームの柱にをついた。 の通過音が、の奥で激しく反響する。
「……織さん」
私の声は、無識のうちにくなっていた。
「あなた、その話を信じたの?」
話の向こうで、織がハッと息を呑む気配がした。
「あのお義母さんが、本当に反省してあなたに謝ったとっているの? それはね、あなたを罪悪で絡め取って、自分の陣営に引き戻すための典型なよ」
『お義姉さん、それは……でも、あんなにさくなって泣いている姿を見たら……』
「じゃあ聞くけど」
私はを押し殺し、徹に問い詰めた。
「あんなになお義母さんなんだから、私はあの儘を受け入れて、あのの介護をして、を良太さんにけ渡すべきだったって、あなたもそううわけ?」
『そんなこと言ってません!』
織の声が擦った。
『お義姉さんの権利を侵害していいなんて、っていません! ただ……お義母さんも、悪気があってやったことばかりじゃないのかなって……。本当に、独りになるのが怖くて、必だったんじゃないかって……そうっただけです』
「悪気がなければ、のを奪っていいの?」
受話器の向こうが、完全に沈黙した。
織の呼吸だけが、浅く速く聞こえてくる。
同盟の脆さを、私はややかに実していた。 所詮、私たちは「義理の姉妹」に過ぎない。 被害者としてを組んだつもりでも、相が歩踏み込んでを見せれば、その元は簡単に揺らぐ。