"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第13話
誰も声を発さない。
義母の言う「完璧な計画」の異常さに、全員が息を呑んでいた。
その沈黙を切り裂いたのは、いがけない音だった。
「……ふっ」
い呼気。
続いて、ククク、と喉を震わせるような微かな振。
織だった。
織は片で元を押さえ、必に笑いを堪えようとしていた。
しかし度漏れた笑気は止まらず、肩をきく揺らし始めた。
「……あははっ! あはははは!」
ついに堪えきれなくなったように、織の澄んだ笑い声がリビングに響き渡った。
広で婚調を突きつけたとはまるで違う、底おかしさに耐えかねた、あけすけな爆笑だった。
義母の顔が、りで真っ赤に染まった。
「な、何がおかしいのよ織さん! が真面目に族のことを考えてるのに!」
織は涙を指先で拭いながら、ソファーののを指さした。
「すみません、お義母さん……でも、あまりにも面すぎて……っ」
織は呼吸をえ、ややかな、しかしれやかな笑顔で義母を見据えた。
「お義母さん。私、先週から良太さんと婚調なんですけど」
「……は?」
「もうすぐ赤のになる女の週末に、なんで介護と買いしのシフトがびっしり組み込まれているんですか? 美容のパートを休んで、元夫の実へ無料の政婦をしに来いって本気でおっしゃってるんですか?」
「そ、それは……族のってものが……!」
「ありませんよ、そんなもの」
織は即座に切り捨てた。
「良太さんが私に無断であなたと同居を決めた瞬、私ののは完全に消滅しました。自分の親の面倒を元妻に注しようとする発、本当に寒気がします」
良太が居悪そうにを縮め、ソファーの隅へ逃げようとした。
そこへ、背から追い討ちがかかった。
「おばあちゃん、これ、族会議じゃないよ」
音が、底呆れ果てた声で言った。
「ただのブラック企業のワンオペ業務シフト表じゃん」
「か、音……!?」
「お母さんには平の事を全部押し付けて、織さんには週末のタダ働きをして。自分は何もしないで『面倒を見てもらう側』に居座る気満々でしょ? お父さんと良太おじさんは、回のしと球交換だけ? そんなの、誰がどう見てもおかしいって気づかないの?」
歳の孫娘からの容赦ない正論に、義母は言葉を失い、パクパクとを閉させた。
私は静かにちがり、テーブルの央へ歩み寄った。
「お義母さん」
私の声に、義母の肩がビクッとねた。
「つだけ、伺ってもよろしいですか?」
「……な、何よ」
私はテーブルののルーズリーフを指先でトントンと叩いた。
「このシフト表ので、あなたご自の役割は、体どこにかれているのですか?」
義母は眉を吊りげ、切り声をげた。
「何言ってるのよ! 私は歳よ!? 寄りに何をしろって言うの! 親の面倒を子供たちがるのは、この国の当たりでしょう!?」
「いいえ、当たりではありません」
私は徹に言い放った。
「事の支度も、掃除も、洗濯も、に命令してやらせる権利はあなたにはありません。自分のでち、自分のの範囲で暮らし、できない部分を公な介護保険サービスに委託する。それが、自したのき方です」
「千里さん、あんた……っ!」
「母さん、もうやめろ」
く、押し殺した声が響いた。
夫の俊だった。
夫はポケットから枚のを取りし、義母のシフト表のにねて置いた。
駅側の、1Kアパートの図面だった。
「俺と良太で、賃の補助も活費の面もする。続きも全部俺がやる。だから……これ以、千里や織さんを巻き込むのはやめてくれ」
「俊……! あんたまで母親を……!」
「母親を捨てるんじゃない」
夫は義母の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞳には、これまでの逃げ腰な甘えはなかった。
「母さんが、のに寄するのを止めさせるんだ。俺たちが、それを許してきたせいで、母さんをここまで傲にしてしまったんだよ」
義母の顔から、すべての血の気が引いていった。
自分が支配していたはずの男。
都よく操れると信じていた族。
そのすべてが、自分の作りげた「シフト表」
という名の滑稽なと共に、完全に崩れった瞬だった。
義母の線が、助けを求めるように良太へと向いた。