"もう私を「お母さん」と呼ばないで" 第7話
をした拓也の額に氷嚢を当て続けた、の夜。だらけの体操着を洗いしながら、たさで指先の覚がなくなった朝。
あの子が学院に受かった、この狭い台所で、声を殺して泣いたこと。
すべて、本物だった。あのにあったに、嘘はつもなかった。
だが、段ボールの底からてきたのは、それだけではなかった。
、正彦がこっそり私のアパートに置いていった鍵。病院の裏で密会したの、消印が押された領収の束。
私はそれらを畳のに並べ、じっと見つめた。
胸の奥底で、酷な声が囁く。おは、このまみれの労働の記録で、あの領収をきしようとしていただけではないのか。「こんなに尽くしたのだから」と、自分を許すためのアリバイを作っていただけではないのか。
「……何やってんだい、夜に」
背から声がして、臓がねがった。
振り返ると、勝のガラス戸の向こうに、所にむ文さんがっていた。歳になる、昔からの数ない茶み友達だ。
文さんはいた戸からのままがり込み、散らばった類と私の蒼な顔を見ろした。
「表の気が点きっぱなしだったからね。……拓也ちゃんのことかい?」
町内の噂はい。千万円のを買うと息巻いていた拓也が、鬼のような形相でびしていったのを、所の誰かが見ていたのだろう。
私は誤魔化す気力もなく、ただ力なく頷いた。そして、誰にも言えなかった真実を、掠れた声で吐きした。
文さんは黙って煙を吸い、私の告を最まで聞いた。驚きもせず、責めもせず、ただ煙の向こうから私をじっと見つめていた。
やがて、皿にくなった吸い殻を押し付け、く言った。
「あんたさ、自分を痛めつければ、あの世の奥さんがぶとでもってるのかい?」
胸を突かれた。
「何も穴のいた靴履いて、旅もかず、贅沢つしないでさ。そうやって『私は惨めです、罰を受けています』って顔をしてきてりゃ、罪が軽くなるとでもってたのかい?」
「文さん……」
「いい加減におしよ」
文さんはちがり、散らばった段ボールをで軽く突いた。
「贖罪ごっこは終わりだよ。あんたがどれだけ自分をすり減らしたって、んだはき返らないし、傷ついたあの子の過も消えやしないんだからさ」
文さんがった、静まり返った部で、私はち尽くした。
目から鱗が落ちるような、痛烈な覚悟が胸に満ちていく。な母親を演じるのは、もうやめだ。惨めさに逃げ込んで、許しを乞うような態度は、真由美さんに対しても、拓也に対しても、最の侮辱だ。
私は机に向かい、枚の便箋にくき留めた。そして、スマートフォンをに取り、拓也の番号へメッセージを送った。
『あなたがるべきことは、すべて包み隠さず話します。でも、私が真実を話したからといって、私を許す必はありません』
送信ボタンを押した指先は、もう震えていなかった。
の夜、拓也が再び現れた。
の墓で真由美さんの墓参りを済ませ、恵子さんから話を聞いてきたあとの顔だった。憔悴の奥に、質なが宿っている。
拓也はコートを脱ぎ、居の座布団のに正座した。私もその正面に座る。
テーブルのには、私が理した束の類があった。正彦が残した古い記の抜粋と、当の私の与細、そして正彦が当真由美さんに宛ててこうとしていた、婚協議のりき。
拓也の線が、その婚協議で止まった。
「……父さんは、母さんが病気だとっていて、これをいたのか?」
掠れた声だった。
拓也にとって、父親の正彦は、若くして妻をくし、男つで庭を支えようとした劇の父親だったはずだ。その父親が、病の妻を切り捨てる準備をしていたという証拠。
「ええ」
私は目を逸らさずに答えた。
「正彦さんは、逃げたかったのよ。引く病と、んでいく妻の現実から。……そして私は、そのさにつけ込んだ」
拓也は拳をく握りしめた。指の関節がく浮きがっている。
「叔母さんから聞いたよ。……母さんは、ぬ直まで、父さんの帰りを待っていたって。