"もう私を「お母さん」と呼ばないで" 第10話
拓也は私と線をわせず、で言った。
「このだ。隙から吹き込んでるんじゃないかとって……ホームセンターでシートを買ってきた」
私は絶句した。頼んでもいない。連絡すらしていない。
「……漏りなら、洗面器で受けているわ。こんな嵐の夜に、根に登るなんて危ない真似はやめなさい」
「側のトタンを塞ぐだけだ。脚を貸してくれ」
拓也は私の制止を聞かず、勝ったる取りで裏庭へ回り込んだ。
羽も着ず、濡れそぼりながら壁に脚をて、暗ので際よくシートを張り、テープで押さえていく。かつて正彦が曜ごとにやっていた曜の仕と、残酷なほどよく似ていた。
分。ずぶ濡れになった拓也が、勝から居にがってきた。
私は黙って乾いたバスタオルを渡し、油ストーブにを点けた。青い炎がパチパチと音をて、湿った空気を温め始める。
「着替えはないわ。正彦さんの古い綿入れなら、箪笥にあるけれど」
「……これでいい」
拓也はタオルで乱暴にを拭き、ストーブのに座り込んだ。肩から湯気がちっている。
私は台所にち、鍋にをかけた。豆腐と根の噌汁。温めたご飯を茶碗によそい、昨晩漬けたばかりの古漬けを皿に盛る。
無言のまま、お盆を拓也のに置いた。
「べなさい。
体がえ切っているわ」
拓也は湯気をげる噌汁を見つめたまま、しばらくかなかった。やがて、え切った指先で割り箸を割り、汁を啜った。
喉仏がする。
「……いな」
「そうね。最、血圧を気にして減塩にしているの」
会話は、それだけだった。箸の擦れる音と、ストーブの燃える音だけが、畳に落ちていく。
拓也は黙々と飯をに運んだ。子どもの頃から、嫌なことがあると無言でご飯をかき込む癖があった。その姿を見つめながら、私は自分の膝のでねた指をく握りしめた。
茶碗が空になったとき、拓也が湯呑みを両で包み込み、くをいた。
「……許せないよ」
部の空気が、シンと静まり返った。
「母さんが病気で苦しんでいるときに、おたちが何をしていたのか。……それをうと、今でも目のが真っ暗になる。、許すことはできないとう」
「ええ」
私は静かに頷いた。
「許してはいけないわ。あなたがそれを許してしまったら、真由美さんは本当にきりになってしまう」
拓也は俯き、親指の腹で湯呑みの縁をなぞった。
「でもな」
声が、微かに掠れた。
「俺がを退するって暴れたとき、お、晩俺のを握って泣いただろ。……学の入学がりなくて、おが自分の着物を全部売り払って面してくれたことも、ってる」
拓也の目から、筋の涙が零れ落ち、畳に濃い染みを作った。
「許せない過と同じくらい、おと過ごしたも、本物だったんだよ。……どっちかつを捨てて、なかったことになんて、俺にはできない」
胸の奥の、番い所が激しく軋んだ。
「拓也……」
「俺たち、これからどうすればいいんだ」
息子の問いかけに、答えなど用していなかった。都のいい族の形など、この世のどこにも残されていない。
「わからないわ」
私は正直に言った。
「ただ、嘘のない所で、お互いに自分のをきるしかないんじゃないかしら。……あなたが私を憎むがあっても、私はそれを受け止める。それだけよ」
拓也はゆっくりと顔をげた。充血した瞳の奥に、かつての怯えやりはもうなかった。
「……帰るよ。もりになった」
拓也はちがり、湿ったコートを羽織った。玄関で見送る私に、拓也は靴を履きながら背越しに言った。
「来週の分の。……にく。もし来られるなら、に墓ので」
引き戸がき、夜が吹き抜けた。今度は、ドアが乱暴に閉まる音はしなかった。
分のの霊園は、咲き始めた桜の淡いピンクと、入れされた芝の緑に包まれていた。
約束の分、私はとリンドウの束を抱えて、佐藤の墓所のにった。
『佐藤之墓』と刻まれた黒御。その脇にある墓誌には、佐藤真由美、享歳、と刻まれている。
いまの私よりも、歳も若くして命を散らした女性。
私は筒の古いを捨て、持参したタワシでの表面を磨いた。