"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第3話
「初めてお目にかかります。悠真と申します。本は誠におめでとうございます。希さんと共に、おじい様の穏やかな々をよりお祈り申しげます」
無駄のない、凛とした挨拶だった。
祖父は目を細め、悠真の顔をじっと見つめた。
秒。
秒。
秒。
苦しい沈黙が広を支配する。
祖父の顔から、先ほどまでの穏やかな表が完全に消え失せていた。
その鋭い線は、悠真を値踏みしているのではない。
まるで、ずっと探していた答えを、目のの景に照らしわせているかのような異様なを帯びていた。
臓がねがる。
挨拶に無礼があったのだろうか。
私がたまらずをきかけた、そのだった。
「……全員、て」
祖父のく掠れた声が、広の静寂を切り裂いた。
「え?」
誰かがさく声を漏らした。
叔父が眉をひそめ、腰になりながら祖父に呼びかける。
「親父、何を言ってるんだ? めでたい席で……」
「てと言っているのが聞こえんのか!」
のようなだった。
歳の老のどこからたのかとうほどの迫力に、親族たちが息を呑み、慌ててちがる。
母も震えるで膝を押さえながらちがった。
わけが分からないまま、広にいたいが総ちになる。
座っているのは、祖父のに正座したままの私と悠真だけだった。
「おじいちゃん、あの……」
私が恐る恐る見げると、祖父はに握っていた太い杖を、ゆっくりと畳のに横たえた。
そして、両を座卓の縁にかけ、自らの腕との力だけでちがろうとしたのだ。
「お父様、いけません! お怪をされます!」
隣の席の叔母・理恵が鳴のような声をげて駆け寄ろうとしたが、祖父は鋭いでそれを制した。
普段は誰かの支えがなければ歩くこともままならないはずの。
その老いた膝が刻みに震え、骨が軋む音がここまで聞こえてきそうだった。
それでも祖父は誰の力も借りず、歯をいしばって、まっすぐにちがった。
そして、引きずるようない取りで、歩、また歩と、私たちの方へ歩み寄ってきたのだ。
ざり、と袋が畳を擦る音だけが、異様な緊張ので響く。
叔父の顔から、完全に余裕のが消えっていた。
額にじっとりと脂汗を浮かべ、何が起きているのか理解できない目でち尽くしている。
祖父は、私と悠真のわずかメートルでを止めた。
次の瞬――
私の界が、信じられない景で塗りつぶされた。
祖父が、く、腰を折ったのだ。
綺麗な度の最敬礼。
歳の族の絶対な老が、代そこそこの若者夫婦に対して、畳にが届かんばかりにくをげていた。
広の空気が、完全に凍りついた。
誰も呼吸すらできない。
畳に向けられた祖父のから、絞りすような、ひどく震える声が落ちた。
「すまなかった……。希、おにばかりさせてきた」
「……え?」
私の喉から、抜けな音が漏れた。
悠真が慌ててを乗りし、祖父の肩にを伸ばしかけた。
「おじい様、おやめください! どうか顔をげてください!」
「そうだ親父! 何をしてるんだ!」
叔父が叫ぶように割って入ろうとした。
「そんな素性のれねえ男と、そいつに騙された娘に、なんで親父がをげなきゃならないんだ! 恥ずかしいからやめてくれ!」
祖父はをげたまま、ぴくりともかなかった。
そして、悠真のをそっと押し留めると、ゆっくりと、しかし確かな力さで顔をげた。
その目元には、じわりと涙が滲んでいた。
「わしはな」
祖父の声はく、広の隅々にまで染み渡るように響いた。
「今まで、礼を言う相を完全に違えておった」
叔父の顔が、ぴきりと引きつった。
「な……何を言って……」
祖父は叔父を酷なまでに見据えた。
その瞳には、侮蔑でもりでもなく、底れない失望のが宿っていた。
「先、わしが入院しただ」
祖父が言葉を区切るたび、叔父の喉仏が激しくするのが見えた。
「達夫。おは親族ので、父親のために万全の配をし、を惜しみなく使って病していると吹聴しておったな」
「そ、それは事実です! 俺が病院に掛けって、特別を配して――」
「嘘をつくな」
乾いた、い撃だった。
叔父の言葉が喉に詰まる。