"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第6話
藤森達夫』
「……っ!」
画面を見つめる私の指先が、りでわなわなと震えた。
「何なのこれ……! まだこんなこと言ってるの!?」
助席で声を荒らげる私に、運転席の悠真が赤信号で静かにをめ、そっと声をかけた。
「希」
「悠真さん、ごめんなさい。こんな失礼なこと言われて……無していいから。絶対に引き受けなくていいからね」
「僕のことはいいんだ」
悠真はまっすぐに私の目を見た。
その瞳には、侮辱されたことへのりではなく、い懸が宿っていた。
「それより、お義母さんのところへこう」
「え……?」
「さっきの席で、お義母さんが箸を落としたの顔……普通じゃなかった。何かを隠してる。叔父さんの『をしてる』って言葉に、絶対に何かある」
悠真の静な指摘に、私の胸のざわめきが気にたい確信へと変わった。
母は昔から、嘘をつくとき、極端に数が減り、線を元に落とす癖がある。
あのの母の顔は、ただの揺ではなかった。
抱え込んできた秘密が、公衆の面で暴かれそうになったの、底れぬ恐怖の表だった。
「うん……こう。お母さんのに」
母がで暮らす古い造アパートは、実を処分したに借りた、慎ましいきりの部だった。
玄関をけると、使い古された線の匂いと、え切ったの空気が漂っていた。
「……希? 悠真さんも。
どうしたの、こんな夜遅くに」
部着に着替えていた母は、私たちを見るなり、あからさまにたじろいだ。
「お母さん、話があるの」
私が靴を脱いでがり込むと、母は困ったように線を泳がせ、台所へ逃げようとした。
「お茶でも淹れるわね。かったでしょう、わざわざ来なくても――」
「お茶はいいから」
居のさな座卓のに座り、私は母の目をまっすぐに見据えた。
「さっきの理恵叔母さんの言葉、どういう?」
母の背が、ピクリと凍りついた。
薬缶のを止める母のが、刻みに震えている。
「どういうって……達夫さんが、おじいちゃんのために々おをしてくれたって、そのままのよ」
「嘘つかないで」
私の声が、自分でっていたよりも鋭くく響いた。
「お母さん、箸を落とした、顔が真っ青だった。唇まで震えてた。達夫叔父さんが本当におをしていたなら、あんな顔するわけがない」
「希、もういいのよ」
母は振り返り、懇願するように眉をげた。
「終わったことなの。昔のことを今さら蒸し返したって、親戚ので角がつだけでしょう? 達夫さんは藤森運輸の社なのよ。私たちが波をてたら、のあの……お父さんにまで申し訳がたないわ」
また『波』だ。
父がくなってからの、母はずっとこの言葉を呪文のように繰り返してきた。
叔父から見され、親戚の集まりで雑用ばかり押し付けられても、母はいつも「波をてないため」と笑って耐えていた。
その結果が、今のあの料亭での屈辱だったのだ。
「お義母さん」
静かにをいたのは、私の隣に座っていた悠真だった。
悠真は畳のに両を揃え、母に向かって静かにをげた。
「僕のような参者がを挟むべきではないと分かっています。ですが、今、叔父様は僕の無職を引きいにして、希に介護の全責任を押し付けようとしました」
「悠真さん……」
「もし、叔父様が言うように『すべてをで解決してきた派な男』なら、僕たちも筋を通さなければならない部分があるかもしれません。でも、もしそうでないなら――希がこれ以、理尽な犠牲を払う理由はありません」
悠真の言葉には、な棘が切なかった。
ただ、徹なまでの事実と、妻を守ろうとする静かな覚悟だけが込められていた。
母は息を呑み、息子のいない自分たち族のに現れた、このしい『族』の横顔を見つめた。
い沈黙が流れた。
部の隅に置かれた古い柱計の、カチ、カチという乾いた音だけが響く。
やがて、母の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……けないわね」
母は袖で目元を拭い、力なく座卓のに腰をろした。
「本当に、けない母親だわ。
娘にまで、こんな惨めないをさせて……」
母はちがると、寝の押し入れの奥へと向かった。
ガサゴソと類をかき分ける音がして、しばらくして戻ってきた母の腕には、古びた茶い缶が抱えられていた。