"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第7話
昔、お元でもらった焼き菓子の缶。
表面の塗装が剥げ、角が錆びついている。
母はその蓋を、躊躇いがちにゆっくりとけた。
に詰まっていたのは、輪ゴムで束ねられた何冊もの通帳と、何枚もの領収だった。
「これ、何……?」
私がを伸ばそうとすると、母のから、分の澱のような真実が零れ落ちた。
「……達夫さんはね、円もしていないのよ」
息が止まりそうになった。
「え……?」
「おじいちゃんの入院費も、介護ベッドの差額も、退院したの通院タクシー代も……全部、私がこの通帳から引きして払っていたの」
血の気が引いていくのが分かった。
指先が急速にたくなっていく。
「どういうこと……? だって、叔父さんはいつも親戚ので、自分が全部払ってるって――」
「そう言えって、達夫さんに脅されていたのよ」
母は震えるで、冊の通帳をいて座卓のに滑らせた。
そこには、数からの引きし記録が、びっしりと印字されていた。
万千円。万円。万千円。万円。
どれも、祖父がきな検査を受けたり、肺炎で入院したりした期と完全に致していた。
「おじいちゃんが倒れるたびに、達夫さんから夜に話がかかってきたの」
母の声は、当の恐怖をいすように微かに震えていた。
『子さん、今は運送のトラックの検と燃料代の支払いがなって、どうしても元の現がりないんだ。
とりあえずそっちでて替えておいてくれ。来、売掛が入ったらすぐに全額返すから』
「達夫さんは毎回、そう言ったわ。私はお義父さん……おじいちゃんには本当に謝していたし、助けてあげたかった。だから、くなったお父さんの命保険の残りと、私のパートの貯を崩して、言われた通りの額を病院の窓で払い続けたの」
「それで……叔父さんは返してくれたの?」
私の問いに、母は自嘲するように首を横に振った。
「度も。円も返してもらっていないわ」
喉の奥がカラカラに渇いた。
「翌になって、恐る恐る話で聞いてみたの。『先の病院代、どうなりましたか』って。そうしたら達夫さん、なんて言ったとう?」
母の瞳に、い絶望のが宿る。
『子さんは暮らしで、遺族とパート代もあるんだから、なんて使わないだろう。親父に世話になった恩返しだとえばいもんだ。内同士で、いちいち細かいを請求してくるなよ。みっともない』
「……っ!」
激しいりで、奥歯が砕けそうだった。
のを騙し取っておいて、内という言葉で踏み倒す。
それだけではない。
「そのくせ、親戚が集まる法事やお正になると、達夫さんは親戚ので胸を張るのよ。『親父の治療費は全部、俺が会社の名義じゃなくポケットマネーからしてやってる』って。
理恵さんも緒になって、『うちのがどれだけ親孝か』って触れ回って……」
度、母がたまらず理恵叔母に相談しようとしたことがあったという。
だが、理恵から返ってきたのは、氷のようにたい侮蔑の言葉だった。
『子さん、あなた子供も希ちゃんでしょ? うちは息子を私学に通わせておがかかるのよ。藤森の本を支えるのは男の役目なんだから、のであるあなたがしばかり銭を切るのは当然じゃないの』
母はそれ以来、完全にを閉ざした。
自分が騒げば、き夫のが悪くなる。
希が親戚のでいじめられる。
そうやって自分を押し殺し、ただで通帳の残が減っていくのを震えながら見つめていたのだ。
私はノートとペンを引っ張りし、母の領収と通帳の記録をつずつ照していった。
数千万円という途方もない額ではない。
で、細かく積みなった活費、医療費の自己負担分、介護用品の購入費。
計算の数字を叩くたび、胸が張り裂けそうになった。
計、万千百円。
企業の社を気取る男にとって、払えない額であるはずがない。
ただ、弟の未からを巻きげ、自分の柄にして、タダで親孝の美名を買っていたのだ。
「……最だ」
私のから、憎悪の籠もった呟きが漏れた。
「のやることじゃない。お母さんのおを奪って、自分の柄にして……それで今、悠真さんをヒモ男って笑ったの!?」