"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第15話
見や肩きの鎧をすべて剥ぎ取られた叔父は、ただの惨めな初老の男としてち尽くすしかなかった。
「……そこまでじゃ」
座から、くい声が落ちた。
祖父の源造だった。
祖父は杖をしっかりと畳に突いてちがると、叔父の目のまで歩み寄った。
「達夫」
「親父……」
「を見すに、自分がどれだけに支えられてきてきたか、そのでよく考えろ」
祖父の瞳には、切の迷いがなかった。
「おが誇らしげに乗っているあの級も、につけている計も、すべては希の献と、子の涙のに成りっておったんじゃ。恥をれ」
祖父は懐から、通の類を取りして座卓に置いた。
『登記事項証』。
「このの所権は、ぬまでわしのもんじゃ。誰にも売りはせん。悠真さんが調べてくれた介護保険の宅改修を使い、すりをつけ、域包括支援センターと契約してデイサービスを利用する。わしの暮らしは、わしが自分で決める」
祖父は老たちに向き直り、きっぱりと告げた。
「達夫には、子からて替えさせた万千百円全額の返済を命じる。来週に括で振り込め。できんというなら、藤森運輸の役員会で正式に追及させてもらう」
老たちが々しく頷いた。
「当然の処置だ」「達夫、の朝番で会社の資繰り表を役員全員に提しろ。
公私の混同が過ぎるぞ」
叔父は畳のに膝から崩れ落ちた。
かつて広で親族たちを従え、悠真を「ヒモ男」と嘲笑っていた男の姿は、そこにはもうなかった。
ただ青ざめた顔で畳を見つめ、脂汗を垂らしながら震えているだけだった。
「解散じゃ」
祖父のく乾いた言で、く苦しかった庭会議は幕を閉じた。
それから、ヶのが流れた。
季節はを越え、柔らかなのがを包み始めていた。
叔父の達夫は、老たちの厳しい監のもと、会社の余剰資産や役員報酬を削り、母の座へ万千百円を全額返済した。
見栄を張ってめようとしていた過剰な倉庫の建設計画は完全にとなり、会社はの丈にった規模への事業見直しを余儀なくされたという。
親族ので威張り散らすことは度となくなり、叔父夫婦は親戚の集まりにすら顔をせなくなった。
方、祖父のには、玄関と浴、トイレに真しいのすりが取り付けられた。
悠真が作成した改修プラン通り、介護保険の宅改修制度を利用したため、自己負担はわずか数万円で済んだ。
週に回、祖父は域のデイサービスに通い、同代の仲たちと将を指すのを楽しみにしている。
無理な同居も、誰かの過剰な犠牲もなく、祖父の穏やかな宅活は保たれていた。
そして――
「ただいま、希」
玄関のドアがき、作業着姿の悠真が帰ってきた。
胸元には、インフラ管理会社のエムブレムが誇らしげに刺繍されている。
悠真は猛勉の末、難関の設備管理資格を取得し、からその会社の保全部に正社員として採用されていた。
収何千万という派な世界ではない。
けれど、々の活を元から支える、堅実で誇りある技術者の仕事。
「お帰りなさい、悠真さん。お疲れ様」
洗いを済ませた悠真が、リビングに入ってきて屈託のない笑顔を見せる。
「今、現の配管チェックで褒められたよ。のでの経験がそのままかせそうだ」
「よかった……! 本当に、おめでとう」
「希のおかげだよ。信じて待っていてくれて、ありがとう」
で卓を囲み、温かい噌汁とご飯をべる。
何気ない常の会話。
誰かの顔を窺うことも、理尽な悪に怯えることもない、穏やかな。
あの苦しい々を乗り越えたからこそ、この普通の暮らしが、何物にも代えがたい宝物のようにえた。
のあるれた曜。
私たちは、デパで買ったさな桜餅の箱をに、祖父のを訪れた。
玄関の引き戸をけると、廊の真しいすりにを添えながら、祖父が笑顔で迎えてくれた。
「おう、希、悠真さん。よく来てくれたな」
親戚たちの号がび交っていたあの居には、今、よいが障子を揺らしていた。