"夫の親孝行は、私の持ち家でした" 第15話
「ま、真由美……頼むよ、けてくれ! 母さんも浩たちも、俺を責めるばかりで誰も助けてくれないんだ! 俺にはおしかいないんだよ!」
画面越しに、夫がドアに額を擦り付けるようにして懇願してくる。
「族のために良かれとってやったんだ! 男として、みんなにいい顔をしたかっただけなんだよ! 悪気はなかったんだ! やり直そう、な? これからはおの言う通りにするから!」
悪気はなかった。
男として、いい顔をしたかった。
その勝な言い訳の底にある、底れぬ空虚さ。
、この男のどこに惹かれたのか、今となってはいすことすらできない。
この男がしていたのは私ではない。
自分の見栄を着飾るための台装置としての「妻」と、その妻が持参した「」だけだったのだ。
「あなたの言う『族』のに、私のは度も入っていなかったわ」
私は静かに告げた。
「曜の朝、あなたのデスクに弁護士から受任通と婚協議が届きます。今の連絡はすべて弁護士を通してください。度と、私の敷居を跨がないで」
「真由美! 真由美ーーッ!」
インターホンの源を、根元からオフにした。
画面がブラックアウトし、玄関先からの叫び声が、頑丈なドアの向こうでい雑音へと変わっていく。
やがて、くでパトカーのサイレンが微かに聞こえ始めた。
隣の民が、騒音に耐えかねて通報したのだろう。
所迷惑と世体を何よりも恐れていた男が、自らの醜態によって通報される。
これ以の皮肉はない。
音がざかり、は完全な静寂に包まれた。
翌週、弁護士同席のもとで子の荷物の搬がわれた。
子は最まで「親孝者」「鬼嫁」と喚き散らしていたが、本の叔父から「これ以恥をねるなら親族から絶縁する」とされ、々の体で元の古い県営宅へと引き取られていった。
浩と美智子は、退届の取り消しが利かず、急遽敷礼なしの狭い造アパートへ転がり込んだという。
引っ越し費用と違約を巡って修と激しい銭トラブルになり、兄弟の縁は完全に切れたとの噂で聞いた。
そして、修。
親族内での信用を完全に失っただけでなく、会社宛てに弁護士からの受任通が届いたことで、社内でも「妻の資産を横領しようとして追いされた男」という噂が瞬くに広まった。
営業課のポストを解かれ、関連子会社の閑職へ向が決まったと、弁護士経由の報告に記されていた。
婚協議は、度の調もかれることなく、私の完全勝利で結審した。
夫側の責性を証する類――偽造紛いの売却依頼履歴、直の資計画、弟夫婦の証言LINE――が完璧に揃っていたため、修は切の反論を諦め、私の提示した条件をそのまま呑むしかなかったのだ。
財産分与における自宅の完全守。
解決としての夫の退職見込み額からの引き。
円の損失もさず、私はすべての続きを完させた。
婚届を受理されたの夕方。
私は、自宅のリビングにっていた。
子の使っていた客は綺麗に清掃され、義母特の線の匂いも完全に消えっている。
が差し込むフローリングは、代の頃と変わらず、温かな飴に輝いていた。
ダイニングの子に腰をろし、温かい茶にをつける。
静かだ。
誰かの嫌を窺う必も、理尽な言にを塞ぐ必も、私のを脅かされる恐怖に怯える必もない。
このを売らなかったことを、私はぬまで悔しない。
ちがり、窓のの夕焼けを見つめる。
私の、私の名義、私の。
ここから始まる私のに、あの者たちの部は、最初から畳たりともしない。