"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第3話
「……?」
「私がインフルエンザにかかって、度のをして寝込んでいたのことよ」
修の線が泳ぐ。記憶の引きしを必に探しているようだが、見つかるはずもない。彼にとって、それは取るにらない『常』のコマに過ぎなかったのだから。
「あなたは仕事から帰ってきて、寝のドアをけてこう言ったの」
私は、あの氷のようにえ切った寝の空気と、喉の痛みをいしながら、言ずつ告げた。
「『今の弁当箱、どこ? あと、蔵庫に何もないんだけど、俺の晩飯はどうなってるの?』って」
修の息が止まる。
「氷嚢も、スポーツドリンクも買ってきてくれなかった。で震える私を見ろして、舌打ちをして、コンビニへてったわね」
「そ、それは……俺も仕事で疲れてて、パニックになってて……」
「違うわ」
私は首を横に振った。
「パニックだったんじゃない。私をのとして見ていなかったのよ。をしても壊れない、文句も言わずに飯を供し続ける械だとしかっていなかった」
テーブルを挟んで、修の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「私が婚を決めたのはね、事が辛かったからじゃないの。私がどれだけ疲れていても、どれだけ傷ついていても、あなたが度も『丈夫か』と聞いてくれなかったからよ」
「美紀……」
「弁当を作るがいなくて困っているなら、政婦を雇いなさい。
お義母さんの膝が配なら、あなたが介護休業を取りなさい。それが、の責任というものです」
私はバッグから銭入れを取りし、自分のアイスティーの代百円をテーブルのに置いた。
伝票は修の側に滑らせる。
「度と、私のには来ないで」
ちがり、背を向ける。
「待てよ、美紀!」
背から子の引かれるけたたましい音と、修の鳴のような呼び声が響いた。
「俺、おがいなくなってから、ずっとあの弁当箱見てたんだぞ! あんなに尽くしてくれた女、にいなかったって……やっと気づいたんだよ!」
周囲の客の線が斉に突き刺さるのが分かった。
けれど、私は振り返らなかった。
「失ってから気づいたなら」
ち止まり、肩越しにややかに告げる。
「そのまま、悔していなさい」
自ドアを抜け、の気配を含んだのに踏みす。
胸の奥が、驚くほどすっきりと澄み渡っていた。
かつての私を縛り付けていた罪悪の鎖が、音をてて砕け散った瞬だった。
そのの夜、私は古の奥にある、さなリビングスペースにいた。
本と珈琲のりが漂う畳の空。
ローテーブルのには、煎りのほうじ茶と、湯気をてる鮭と根菜の粕汁が並んでいる。
「……というわけ。全部、話したわ」
私は湯呑みを両で包み込みながら、目のに座る誠さんを見つめた。
林 誠。歳。
脱サラしてこの古を営み、男つで娘の遥ちゃんを学まで育てげただ。
目尻に刻まれた穏やかな笑い皺と、丁寧にお茶を淹れる骨張った指先が、荒れ狂っていた私の神経をゆっくりと解きほぐしていく。
昨夜、この所で、彼からさな真鍮の指輪を渡された。
『派な活はさせてあげられないけれど、これからのを、美紀さんと緒に歩みたい』
そう言ってをげた彼に、私は頷いたばかりだった。
誠さんは私の告を遮ることなく、静かに最まで聞いてくれた。
修が旧式の弁当箱を持ってきたことも、あののことも、カフェでの拒絶も、すべて。
沈黙の、誠さんはふうとさく息を吐き、湯呑みを置いた。
「怖かったかい?」
責めるなど微もない、ただ私のに寄り添うような音。
「怖くは……なかったです。ただ、呆れてしまって。あんな男にも縛られていた自分が、けなくなったというか」
「けなくう必はないよ」
誠さんは穏やかに首を振った。
「誰かのために尽くせるのは、美紀さんの美徳だ。それを粗末に扱った相が愚かだっただけの話だよ」
その言葉が、張っていた私の肩をふっと緩める。
「ただね」
誠さんは居まいを正し、まっすぐに私の目を見た。
「つだけ、約束してほしいことがある」
「約束……ですか?」
「昨夜、私の求婚を受けてくれたとき、本当に嬉しかった。