"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第15話
「美紀さん」
誠さんが脚からり、私の元にそっとをねた。
作業を止められた瞬、私の胸に、ピリッとした苛ちがった。
「何ですか、誠さん。私、これ今に仕げて、郵便局の本局に持っていかないといけないんです」
「……今の夕方、公民館でやってた『起業支援セミナー』、かなかっただろう」
臓が、トクンと嫌な音をてた。
「あ……それは、ここの棚のペンキ塗りが終わってなかったから……」
「美紀さん」
誠さんの声は、普段の温さを潜め、かつてないほど厳しかった。
「君は、何のために私といるんだい?」
「え……?」
「昨夜もそうだった。夜に台所でガタガタと音をてて、何品も惣菜を作っていた。私が『無理をしなくていい』と言っても、君は『これくらいやらないと落ち着かない』と笑って誤魔化した」
誠さんのまっすぐな瞳が、私の顔を捉えてさない。
「君はまた、自分を削って相に差しすことで、自分の居所を買い取ろうとしているんじゃないか?」
喉の奥が、カッとくなった。
図を突かれたの、醜い防本能が鎌首をもたげる。
「どうして……どうしてそんな言い方をするんですか!」
わず、声が裏返った。
「私は、誠さんの力になりたいだけです! を伝って、美しいご飯を作って、役にちたいってうことが……そんなにいけないことなんですか!?」
叫んだ瞬、作業がを打ったように静まり返った。
荒い息を吐く私ので、誠さんはることもなく、ただいしみを湛えた目で私を見つめていた。
「いけないことじゃないよ」
誠さんは静かに言った。
「でもね、美紀さん。君が自分のを回しにして、眠を削って作る料理なんて、私はべたくない」
「誠さん……」
「私がしたのは、料理という自分の技術に誇りを持ち、自分のでを切り拓こうとしている佐藤美紀さんだ。私の嫌を取るために、昔の『都のいい主婦』の仮面を被り直そうとしている君じゃない」
言葉のつつが、私の胸の柔らかい部分を容赦なく抉っていく。
「君が私に尽くすことでしかできないなら、この結婚はやめよう。私は、君をすり減らす代目の加害者になりたくない」
を鈍器で殴られたような衝撃だった。
そうだ。
私は無識のうちに、また同じ沼にを踏み入れかけていたのだ。
修とので骨の髄まで染み付いた、『相に尽くさなければ見捨てられる』という恐怖。
誠さんが優しければ優しいほど、その優しさに甘えることが怖くて、自分の労働を担保として差しさずにはいられなかった。
「されるための労働」を差しさなければ、私には価値がないのだと、私自が信じ込んでいたのだ。
膝から力が抜け、私は作業台の端を掴んでうずくまった。
涙が、ボロボロと元の企画のにこぼれ落ちる。
「……ごめんなさい」
絞りすような私の声に、誠さんはゆっくりとしゃがみ込み、私の震える肩を抱きしめた。
「謝ることはないよ。の呪いは、そう簡単には解けない。だからこそ、ち止まるんだ」
誠さんの体温が、え切った私の背に染み渡っていく。
「はコンペのプレゼンだろう。今夜はもう何もするな。アパートに帰って、自分のためだけに呂を沸かして、のように眠りなさい。自分の戦いに、全力を注ぐんだ」
私は濡れた顔をげ、誠さんの目を見つめた。
このは、私を消費しない。
私の痛みを、私以に真剣に見つめてくれている。
「……はい」
私はく頷き、作業台のの私物をバッグに詰めた。
古の鍵を誠さんに返し、夜のへる。
たい夜が、涙で濡れた頬をやしていく。
のための事でも、されるための奉仕でもない。
私は、私自の名で、私自の未来を掴み取りにくのだ。
曜の夜。
の朝に控えた企画コンペの最終準備を終え、私はアパートのゴミ袋を両にげて、階段をりていた。
プレゼン用のスライド資料、参加者のアンケート集計、収支シミュレーション。
やるべきことはすべてやり切った。
胸の奥には、議なほどの静けさと揚が同居していた。
ゴミステーションに袋を置き、アパートのエントランスへ戻ろうとした、そのだった。