"手切れ金百万、消えた一億三千万" 第6話
「あんた社でしょう! こんな女にをげるんじゃないわよ!」
「うるさい、黙ってろババア!」
航平はちがり、突如として実の母親に向かって狂乱したように鳴り返した。
「全部おと美奈のせいだ! おたちが毎何百万円もたかるから、僕はおかしくなったんだ! 栞のを当てにして贅沢昧しやがって! おたちさえいなければ、僕がこんな目に遭うことはなかったんだ!」
「な、なんですって……!? 母親に向かってなんてを利くの!」
で繰り広げられる、醜悪極まりない親子の罵りい。
互いの責任を擦り付けい、罵詈雑言を浴びせうその姿は、かつて「由緒正しい名」を自称していた者たちの、救いようのない本質を呈していた。
私はいため息をつ吐きし、執官に向き直った。
「執官、作業を続けてください。敷内に残された彼らの私物は、規定通り倉庫へ移送をお願いします」
「かしこまりました、神崎様」
執官が際よく図をし、作業員たちが神崎の財具をトラックへと積み込んでいく。
「栞! かないでくれ、栞!」
すがりつく航平の叫び声を背に受けながら、私は度も振り返ることなくハイヤーへと乗り込んだ。
窓のカーテンを引くと、のたいが、世田のを激しく揺らしていた。
初の午、都のつホテルの階に位置するエグゼクティブラウンジは、界の喧騒を完全に遮断した静謐に包まれていた。
磨き抜かれた理のには柔らかな陽が幾何学模様を描き、くのグランドピアノからはショパンの夜曲が微かに流れている。い井となガラス窓の向こうには、霞がかった京のビル群が望できた。
その洗練された空の最奥、窓際のボックス席で、私は条梨と向かいっていた。
テーブルを挟んで座る彼女の姿には、かつて鎌倉の料亭で見せつけた傲な輝きは微も残っていなかった。かつて体の起伏をあからさまに誇示していたのシルクワンピースはを潜め、いまにまとっているのは、量販で急しのぎに買い求めたような、丈のわないのトレンチコートだった。
「……神崎先。いえ、栞さん」
梨の声は擦れ、まるで乾いた砂を噛むように頼りなく震えていた。
入れを怠ったことが目でわかる荒れた指先が、ソーサーのでカチャカチャと音をてるボーンチャイナのティーカップを、必に押さえつけようとしている。しかし、指の震えは止まらず、表面に淡い波紋がち続けていた。
「私に対する民事訴訟を……どうか、取りげていただくことはできないでしょうか。この通りです……」
彼女はくをげた。入れのき届いていない髪のえ際から、かつて隠されていた毛の黒いが覗いている。
入りに巻かれていたはずの巻き髪は湿気でだらしなく崩れ、ファンデーションの浮いた頬には、拭いきれなかったマスカラの黒い筋が微かに残っていた。
彼女がここまで追い詰められている理由は、私にはに取るように分かっていた。
私の配した調査チームと法務監査によって、神崎デザイン事務所から流していた使途の終着駅――シンガポールのダミー会社を隠れ蓑にしたペーパーカンパニー『リベルテ・トレーディング』の実態が、わずか数に完全にのに晒されたのだ。その法の名義は条梨本であり、国内の指定座には、神崎デザイン事務所から「マーケティング調査費」や「ブランディング監修料」という架空の名目で、計千百万円もの資が還流されていた。
その証拠類式は、昨の午に、警庁捜査課の能犯係と京国税局査察部の双方へ正式に提されている。
「取りげる理由が、どこにあるのかしら?」
私は膝のにいていた分い財務監査報告から静かに線をげ、徹な差しをまっすぐに彼女の瞳へと注いだ。
「条さん。あなたが航平さんから正に受け取っていた資、総額千百万円。そのすべては、私が個として事務所に貸し付けていた運転資、ならびに夫婦共の事業資産から法に引きされたものです。